沈まぬ太陽

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

航空運賃
easyJet
イギリス ロンドン → スペイン マドリード (距離1700km)
往復 7,800円


JAL
大阪 伊丹 → 北海道 札幌 (距離1700km)
往復 72,000円

ここに挙げた数字は、イギリスで最近急成長している格安航空会社easyJetの運賃と我が国の旧ナショナルフラッグことJALの運賃です。なんと同じ距離を飛んでいながら、値段に60,000円以上も開きがあります!

皆さんの興味を引くためわざとeasyJetの最安値を載せましたが、ロンドン→マドリードは高くとも36,000円前後で往復チケットが買えます。同じ距離でありながらなんとJALの半額です。

両社とも航空機材は最新、燃料代もほぼ同じ、従業員の人件費も先進国であるからほぼ同等と考えると、この値段の違いは一体どこから出てくるのでしょうか。

JALの企業努力不足でしょうか?
easyJetは全員派遣社員
easyJetは灯油で飛んでいるんじゃない?

いいえ、どれもあてはまりません。
答えがあるとしたらそれは、ヨーロッパと日本の政治の結果の違いです。


書評の本題に入ります。

この本は、日本航空(現JAL)で働く実在の人物をモデルに描かれています。この主人公は、会社の思惑によって海外の僻地をたらい回しにされる左遷人事に遭いながらも、会社の成長と御巣鷹山事故以後の会社の再建に人生をかけます。

主人公が目にするのは、大企業の力の論理、慣れ合いの人事、数々の権謀術数、運輸行政を取り仕切る国との癒着、利権の取り合い。数え上げればきりがないほどの人間の欲が、舞台となる半官半民の航空会社の周りにこれでもかこれでもかと幾層にも重なります。

読み進めていくうちに気づかされることは、ここに描かれているのは単なる一航空会社の問題ではなく、この国が抱え持っている体質のことです。


それは公共心の欠如です。



図書館では静寂を守ることで、誰しもが集中する時間を得ることができます。
追い越し車線を空けておくことで、急いでいる人はいつでも追い抜くことができます。
電車は遅れて来た人を待ってくれないし、誰かのために早めに出発することもありません。
電車が時間を守ることで、誰しもが自分の予定を守ることができます。

これらは皆、公共心、もしくは公共性がもたらすメリットです。



上で挙げた60,000円の値段の違いは、ヨーロッパと日本の公共性の格差です。一人一人が自らの欲を主張しすぎたため、我々はその分だけ余分に支払いが生じているのです。


誰かが、わが子の身を案じるあまり安全を強く望めば、ほとんど車の通行のない場所にまたひとつ信号が増え、車の流れが止まります。

誰かが、自らの正当性を強く主張しその土地に居座れば、道路や滑走路はその分だけ狭くなり、安全性が失われます。


誰しもが、自らの主張から一歩を身を引き、道を譲らなければいけない時があります。
あなたはそれで自分だけ損をしたと思うかもしれません。
他の人はもっとうまく立ち回っているように見えるかもしれません。



自らを名もなき一人とすることができるか、そこにかかっているように思います。


男の幸福は「われは欲する」ということであり、女の幸福は「彼が欲する」ということである。
ニーチェツァラトゥストラ


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