孫正義とホリエモン

今日は孫正義と、ホリエモンこと堀江貴文との違いについて考えてみたいと思います。

片や通信事業会社SoftBankの社長。一方は言わずもがな、ライブドアの元社長。

どちらも、歴史に残る人物であり、IT業界の発展に多大なる影響を与えた人物です。二人とも、色々な毀誉褒貶で描かれる人物ですが、日本の既得権益者層と今なお戦いを挑み続けているという点では大いに評価されなければいけないと思います。


片や時価総額2兆円超の大手通信事業会社社長の孫正義と、IT業界の表舞台を去ったホリエモン
壮大なビジョン、大胆な行動力、類稀な変革意志。そのすべてを二人とも持ちながら、結果の果実はホリエモンにはもたらされませんでした。


両者の事の成否を分けた要因は一体何だったのでしょうか?
SoftBank会社説明会で起業の志について熱く語る孫正義※を見ながら、そんなことを考えました。




ここでひとつの事に気がつきました。

孫正義は、人前で涙を流すことができる人間で、ホリエモンは人前では涙を流さない人間なんじゃなかろうか。


涙を流さないのはホリエモンが冷たい人間だからではなくて、涙なんかで人心に訴えかけるのは「ダサイ」と考えているからだと思います。
ホリエモンは、言うなれば究極の合理主義者です。

だからこそ、彼は短期間であれほど大きな変革を生み出すことができたのだと思います。彼の合理的な発想に従えば、ある会社に勤めている有望な人材をヘッドハンティングするには、今彼が受け取っている給与の3倍の給料を提示すれば、その人材を引っこ抜くことができると考えます。合理的な人間であればそのような決断をするはずだと。

しかしながら、人間というものはおかしなもので、給与だけが会社を移る判断基準になるとは限りません。周りの同僚や上司などのしがらみがまず頭に浮かび、「単純に給与アップのために、会社を辞めて他の会社に移るのは、利己的な人間だと思われないか」、「今まで会社にそれなりに世話になってきた手前、義理を欠くのではないか」などと、義理人情、浪花節どっぷりの人間関係の網の目が彼の決断に縛りをかけます


ホリエモンの合理的な頭から見れば「バカだなー。早く辞めればいいのに」思うところでしょう。
しかし、合理主義にどっぷり染まりきれない人間は、人によっては涙を流しながら「お世話になりました」と声を詰まらせて会社を去ったりするわけです。


会社を、同じ志を有する者同士の集まりと考えるか、合理的な判断のできる、ビジネスの継続・発展に必要な人間の集まりと考えるか。

これが二人の差を決定づけた要因ではないでしょうか。


孫正義SoftBank社員との間には、合理的な判断を越えた情緒的なつながりが一瞬垣間見えますが、ホリエモンライブドア社員の間には、そのような“非合理な”信頼関係がなかった。もしくは構築できなかったのではないでしょうか。ホリエモン風に語れば「そんなもん不要じゃねぇ?」といった感覚。

むしろ、そういった浪花節的な関係がなかったからこそホリエモンを支持した人間も大勢いたわけで、私自身も彼の短所とは考えたくはありません。彼の目指すビジョンに賛同する人間もたくさんいました。




しかし、時代の流れの中で、事業の進め方に方々から誹謗中傷はあるにせよ、最終的に大きな支持を得た孫正義と、同じく一定の支持を得ながらも、一部の既得権益層から大きな反発を受けて追い出されることになってしまったホリエモン

同じ変革者であり、事業家としても優れている二人。
どうしてこんなにも違う結果になってしまうのか。


孫正義は、Yahoo BBでADSLブロードバンドの普及事業を進める際、既得権益者のNTTがADSLのための通信回線を独占していることに憤り、通信事業の監督官庁である総務省に出向き、担当者の机をバンバン叩きながら、必死に「フェアにしてくれ」と訴えたそうです。

この時の彼の表情を見て、「事業の拡大を望む貪欲な経営者」と思うのか、それとも「瞳の奥にむき出しの熱意を持つ、フェアな競争を望む熱い経営者」と感じるのか。

孫正義は「フェアな競争を望む熱い経営者」として受け取られ、ホリエモンは「相手のことを省みない貪欲な経営者」と受け取られた、もしくはそのように誤解された。




ホリエモンは熱い男であり、フェアな競争を望む事業家だと私は思います。しかしそんな彼には、涙ながらに熱くなって何かを訴えるということができなかった。

そのような姿は彼が望むキャラクターではないし、今後も彼はそんなことはしないでしょう。しかし、今後、彼が再び強い事業意欲にかられた時、今よりももっと熱く何かを訴えかけることができれば、再び多くの人の支持が得られると思います。いえ、これは私自身がそう深く願っていることかもしれません。


※「SoftBank会社説明会 全141分」孫正義SoftBankの志について語る。
USTREAM
http://www.ustream.tv/recorded/5863485

ツイッター総研で孫正義のスピーチ内容を文章で読む
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-40.html